白梅弥子のカライドサイクル

適当な事をちゃんと書く覚え書き的なブログ

絶滅桃娘飲食街

 

 

どこかの偉い学者達が、三年後には人類は確実に滅びると言った。人類が好き勝手やったお陰で汚染された地球では、鶏は卵を産まなくなり、牛や豚だけでなく、人間も奇形しか産まなくなり、畑からはおかしな形の植物が生えるようになり、やがて荒地になっていった。

人類は最新のテクノロジーを駆使して新たな食べ物を探して探して探した......
が、結局のところ共食い、つまり食人が一番の効率の良い食糧難打破だという結論に辿り着いた。

結論が出てからは早かった。憲法やら法律はすぐに変わり、人間の捌かれ方と食べられる部位が研究され、名称が決められ、そこらに食人店が溢れた。

食人が始まり一年ほど過ぎた頃、年頃の女の子の肉が一番美味いということが分かってきた。
昔の中国では、桃のみを食わせた女の子を桃娘、トウニャンと呼び、上流階級が食していたらしい。そう考えれば当然なのかも知れない。
それが分かるとあっという間に女の子のみを取り扱った店があちこちに出始めた。食わせる物も水耕栽培のトマトだけやら、レタスだけ、など味を良くするために限定していた。

せっかく食べるならと、美食家の間で可愛い女の子の肉が売れに売れ、まるで風俗店のように美しい子のみを取り扱った高級店が現れ始めた。
女の子の引きつった笑顔の写真が並び、選んだ女の子の肉が調理されて出てくるのだ。

二年が過ぎた頃、辛うじて栽培される水耕栽培の野菜や人肉などの食べ物があるにはあるとはいえ、人類は廃れ、活気は無くなり、まさに世紀末の様相。強盗や強姦などの犯罪と空き家が増えた。

可愛い女の子も食われに食われ、数年前ならクラスに五人は居る中の上くらいだった顔の子も、高級店で最高級と重宝されていた。

可愛い子を仕入れられない店などは、観客の目の前で女の子が捌かれていくのを魅せる解体ショーをし始めた。これが案外盛況で、食人街に悲鳴が響き渡ることなど当たり前の光景だった。

もうとっくに人類の感覚は麻痺していた。
学者の発表のある前だったら悪趣味が過ぎると誰もが目を背けただろう。しかしこの世紀末の世には他に娯楽も残っていないのだ。

三年が過ぎた頃、もう食える女の子はほとんど残っていない。可愛いと呼べる女の子など当然とっくに居ない。高級店なども元々女の子の次に人気のあった男の子に目をつけ、美少年専門店などの店が増えてきたが、もう看板を変える気力も資材も残っていない。元の看板の上から手書きの紙を貼るのが精一杯であった。

おかしな形の植物が生えた荒地から、欠けたコンクリートのビルの間へ、砂ぼこりに塗れた風が通り抜ける。そこに人影はほとんど無い。人類は学者達の言った通り、もうじき滅びるのだ。

飲食街が盛んになる前の夕陽の中。ヒビ割れたガラスドアの前で、最後まで売れなかった、数秒も見るに堪えない不細工な女の子が、商品になるために似合わない真っ赤なルージュを塗り、涙を流していた。

その涙はいつか食われるかもしれない事への恐怖の涙だろうか。それとも......